◇はじめに
服部ゼミナール2016採用が終了した。昨年の採用の反省を踏まえ、数々 の議論を重ねた上で、本ゼミナールの奥山新斗、山田海が新たな採用方法の提案をしてくれた。そのベース案をもとに、昨年までの良い部分を踏襲したうえで、 採用学を専攻しているゼミナールとしてどのような採用モデルをとったら良いのか、本ゼミナールの3期生全員が本気で取り組んだ「マルチパス採用」につい て、少し長くなるが以下にまとめていく。
また、このページと合わせて、
是非ともこちらも合わせてお読みいただきたい。
※なお、以下の文章は本年度のゼミ採用のうち、タスクとグループディスカッション、つまり選考に直接かかわった部分をピックアップしてまとめています。合同説明会や個別説明会を含めた全採用フローの意図や考察に関しては、別途PDFにてファイルを作成しているので、興味のある方はぜひこちらも合わせてご覧ください(本ページ下部にもダウンロードフォームがあります)。
※4期生へ:ここでは「誰がどの項目で採用されたか」等、個人的なことには触れません。悪しからず。
①ゼミ採用の目的
…「やる気をベースとした、多様性を構成する優秀な人材の確保」と設定。
・やる気と多様性に関して(クリックで展開します)
・「やる気」
・ある一定期間で複数のタスクを課す。タスク①を提出した者にタスク②を配布し、さらにタスク②を提出した者を「やる気」のある者とみなし、その者に最終選考(グループディスカッション)の参加資格を与える。
この過程を採用フローに組み込むことで、エントリーする学生が「一定水準以上のやる気を備えた集団」となることをねらいとしている。
・「多様性」
グループディスカッションのみを行った昨年の採用では、評価項目ごとの点数に相関が出てしまったため(こちらを参照)、タスク(個人行動における能力)とグループディスカッション(集団行動における能力)の両方を課した。
◇選考におけるルール
各選考には評価項目が設定されており、評価する能力1つにつき、その能力値において最終選考参加者の中で最も高得点だった者を1人、無条件で採用する。
評価する能力の数だけこの方法によって採用し、残りの人数に関しては、すべての評価項目値の合計点数の平均値が高い者から規定人数(10人)に到達するまで採用する。
◇多様性を構成する能力
今年のゼミ採用において、服部ゼミが評価対象とした能力は以下の6項目である。
タスクにおいて:
・発想力(タスク①)
・論理力(タスク②)
・アンテナ力(タスク③)
グループディスカッションにおいて:
・情況把握力
・説得力
・活性力
各評価項目については、以下で個別に触れていく。
(この6個を設定した理由についてはPDFファイルに記述)
②2016採用(マルチパス採用)・採用フローと各選考の概要
◇はじめに
・エントリーする学生の負担(重すぎるタスクに対する心理的なアレルギー反応や、取り組み時間を十分に確保できないことなど)及び運営側のオペレーション能力を考慮し、最終選考までのタスクは2つとする。
・タスクの比重を考慮し、タスク①(発想力)とタスク②(論理力)の順番を設定し、回答期間はそれぞれ2日間、4日間とする。
・タスク③(アンテナ力)は、その性質上、情報メディアから遮断された状況下において行うべきものであるため、GDと並行して監視のもと行う。
・タスク①(発想力)及びタスク②(論理力)は、評価側の負担を考慮し、最終的にエントリーした16名の回答のみ評価する。
・評価の際、評価者のバイアスをなるべく排除するため(※)、提出されたタスクの回答を管理する者1名を除いて、「どの回答が誰のものなのか」がわからないようにする。
(※)評価が、タスクの内容以外の影響を潜在的に受けてしまうことを防ぐ。その影響は、たとえばグループディスカッションの時に評価者が抱いた印象であったり、たとえば回答者と個人的に面識があることであったりする。
・すべての評価において、以下の5ステップを踏む。
①評価基準を11人が確認・共有する
②評価基準をもとに各自点数をつける
③各回答について議論する(新たな気づきの発見と擦り合わせの場)
④③を考慮し、各自再評価する
⑤11人の評価点を集計して、平均点を算出する
・服部先生及び3期生10人の間に、評価者としての優劣、得点傾斜はない。各自の評価の集計・平均点算出によって点数を決定する。
・能力ごとに優劣がつかないよう、総合点算出の際に各能力はすべて5点満点に圧縮する。
◇タスク①・発想力タスク(5/19 19:00~5/21 19:00)
・内容
・本問題に関して(クリックで表示します)
発想力を問うにあたって、問⑴・問⑵ともに、堀上明 氏(神戸大学大学院経営学研究科)の博士論文「経営組織における人材の創造性に関する研究 - 思考三位一体理論に基づく創造性の測定尺度開発をめぐって - 」内の創造性検査問題について利用許可を頂き、その内のラテラル・シンキング(水平思考)を測定する問題2問を本タスクの「発想力を測る問題」として、原文のまま使用させていただいた(なお、メールでの回答という形式のため、便宜上フキダシに(左)(右)と記入している。回答に際して、喋らせる順番をこちらで固定してしまわないよう、①②といった数字表現は避けた)。
また、筆者によれば、本来この創造性検査は短時間で行うものであるが、今回はタスクという形式をとっているため、回答期間である丸2日間を期限とした。
また、点数の付け方に関しても、論文中では1~3点の3段階評価となっているが、
・他タスクやGDの評価点が5点満点であること
・本タスク(2問)で1人を選抜するため、3段階評価では点数の差別化が難しいこと
の2点を考慮し、オリジナルの評価基準を参考にしながら独自に5段階の評価基準を作成した。
・評価基準・方法
問⑴問⑵ともに、原文をもとに設定した1点~5点の5段階評価で行う。
3期生10人+服部先生の計11人が「評価に関する共通事項」内で述べた5ステップを経て評価。問⑴と問⑵の平均点を合計し、5点満点に圧縮したもの(つまり足して2で割ったもの)を、その回答者の得点とする。
例:問⑴平均4.0点、問⑵平均3.6点の場合、タスク①の得点は3.8点となる
◇タスク②・論理力タスク(5/21 19:00~5/25 19:00)
・内容
・本問題に関して(クリックで表示します)
本問題は、昨年のゼミ採用においてGDで使用したテーマをベースとしている。
理由としては、
・専門知識があまり問われないものである(知識の有無によって、議論内容に優劣がつかないようにするため)
・明確な「正解」が存在しないものである(正解が存在すると、論理力を評価する際にそれがバイアスとなりかねないため)
・論を展開するにあたってある程度自由があるもの(上の固定解に通じる考え)
と、今回考慮すべきと判断した3つの条件を満たしているものであったこと。
・評価基準(「論理力」を構成する要素)
⑴評価軸の有無
決断するにあたり、明確な方針があるか
⑵情報の過不足
決断するにあたり、必要な情報が不足していないか、逆に必要のない情報が混在していないか
⑶伝わりやすさ
「咀嚼度」
たとえ専門用語を知らない人相手でも理解できるような言葉遣いをしているか
「スマートさ」
抽象から具体への運び方、内容の重要度を考慮した並べ方など、いわゆる文章構成のうまさはどうであるか
以上3つの評価項目を設け、⑴~⑶をそれぞれ5段階で評価した。
・評価方法・・・発想力タスクに同じ。全3項目の平均得点を5点満点に圧縮した。
◇タスク③・アンテナ力タスク(6/2)
・内容
なお、回答用紙はA4片面2枚(例のようにスペースが区切られたもの)を配布した。
・「アンテナ力」とは(クリックで表示します)
「みんなが普段気に留めていないようなところにどれだけ注意を向けているか、またそこに関する情報をどれだけインプットしているか」を端的に表現した能力と定義した。情報感度といった言葉でも定義できるかもしれない。問題作成にあたり、
⑴上記の定義に沿ったアンテナ力が測れる内容であるか
⑵得手不得手が生まれるようなある一定の分野の専門知識に偏らない内容か
に注意をして問題設定を行った。なお、グループディスカッションと並行して別室で行うため、解答時間は30分とした。
・評価基準
「状況」「疑問」「答え」の3つが揃って記入されている回答のみを対象とし、それぞれ評価を行った。
・評価方法
本タスクでトップ評価だった者の点数を、他5つの能力のトップ値平均と同じ値にまで圧縮し、その圧縮率を他の回答者の本タスクの点数にも適用した。
◇グループディスカッション(6/2)
・内容
・GDにおける評価項目に関して(クリックで表示します)
・情況把握力
注意深く周りの意見に耳を傾けより高い位置から俯瞰し、情況を整理したものを共有する能力
・説得力
論理的に意見を構成し、それを相手に理解させ納得させる能力
・活性力
議論を正しい方向に導いたり多くの発言をしたりすることで議論を活性させる能力
→「アクセル力」:批判的もしくは同意的な立場をとり、議論の軌道を修正したり意見を強めたりするの能力
→「積極性」:単純に、どれだけ発言し議論に参加したか
以上3項目(活性力は2要素によって構成)が、GDにおける評価項目である。
・評価基準
①状況把握力
注意深く周りの意見に耳を傾け、より高い地点から俯瞰し、情況を整理したものを共有する能力
②説得力
論理的に意見を構成し、それを相手に理解・納得させる能力
③活性力
ⅰアクセル力…批判的あるいは同意的な立場をとり、議論の質を深め活性化させる力
ⅱ積極性…単純に、どれだけ発言し議論に参加したか
以上①~③の3項目において、それぞれ1点~5点の5段階で評価を行った。なお、③の得点はⅰとⅱの平均点としている。
・評価方法
評価者は、議論進行中の最終エントリー者を囲むようにそれぞれ位置し、評価基準とメモ欄の書かれた評価シートにメモを取りながら点数付けを行った。当日の選考が終了したのち、2グループの議論について気になった部分を映像で確認したのち、タスクと同様に5ステップを経た(ただし、評価基準の確認及び共有はGD開始前に行っている)。
状況把握力と説得力に関しては評価者11名の平均値を、活性力に関しては2要素の点数を足して2で割った点数の平均値を、その回答者の得点とした。
③採用を終えて
・分析に関する表や数値は、PDFに詳細を記載しているため、そちらを参照していただきたい。
⑴全体に関して
結果として、合格者10名は、総合点における上位10名であった(つまり、ある項目においてのみズバ抜けて高得点だが、他項目は著しく点数が低い、というタイプの人はいなかったということ)。
しかし、「GDにおける3項目の総合点上位10名」と「6項目の総合点上位10名」とでは顔ぶれが変わっている。こここから、今回の採用において、タスクを課すことで、GDだけでは評価されることのなかった「優秀さ」を持った人材を見ることが出来たという点で、ひとつタスクを課すことの大きな意義があったと言える。
クラスター分析の結果、最終エントリー者16名の得点の仕方は、およそ4つのタイプに分類することができた。
①発想力の得点は平均的だが、それ以外の項目で高得点
②アンテナ力のみ得点が極端に低く、それ以外の項目で比較的高得点
③すべての項目において平均値寄りの得点
④タスク全般の点数がやや低く、GDで比較的高得点
合格者と不合格者の間で、これらタイプの傾向に大きな差はなかったため、「合格するための一定のパターン」は存在するわけではなかったようだ。多様性を確保するという目的は、この観点からは達成できていると言えるだろう。
⑵タスクに関して
・タスク①(発想力)
問⑴と問⑵の得点の間には強い正の相関がみられた。問うている内容や回答形式は異なるが、2つの問題は同一の「発想力」という評価基準を設けることが出来ていたと考えられる。
・タスク②(論理力)
タスク①同様、設けられた評価基準の間には正の相関がみられた。「評価軸の有無」だけは、有→5点、無→1点と、異なる点数のつけ方をしたために分析は出来ないが、タスク②に関しても、「論理力」を構成する要素として設定した各項目が見当違いではない、適切なものであったと言えるだろう。
⑶GDに関して
今回設定したGDにおける3つの能力は、それぞれができるだけ独立したものになるように区分し、その前提のもとで評価した。しかし、それぞれの能力間には、昨年同様強い正の相関がみられた(こちらを参照)。単純に、各能力間には現実に相関がある(状況把握力に優れた人は説得力にも優れている、など)と考えることもできるが、common method bias(GDという共通の評価方法で各能力を測ったために、各能力に現実以上に相関がみられること)は昨年の感想同様、有力な原因であると考えられる。つまり、GDという単一の選考方法のみで真に多様性を確保しようとすることには限界がある、ということだ。今回タスクを課した理由のひとつがこの問題の解消であったが、⑴で述べた通り、タスクの存在は本採用において、当初の目的通り多様性の確保に大きく寄与してくれた。
⑷GPAに関して
これも例年通り、各能力評価とGPAとの間には全く相関がなかった。
合格者と不合格者の間にもGPA平均値の差はほとんど無く、服部ゼミの求める「優秀さ」はGPAとは別物だということを示してくれている。
・・・・ということで、だいぶ長々と書かせていただきましたが、今期も無事10名の新メンバーを迎えることが出来ました!改めて、服部ゼミナールの選考に挑戦してくれた方に多大なる感謝と敬意を表します。
文責 長池
※一部の文章はファイルからの引用